東京地方裁判所 昭和44年(ワ)2663号 判決 1971年2月24日
原告 有限会社スイス・イン・エンド・シャレー
右代表者取締役 渡辺栄三
原告 庄勢寿夫
原告 秋本絹子
右三名訴訟代理人弁護士 山本草平
同 加藤了
被告 株式会社 緑屋
右代表者代表取締役 岡本虎二郎
右訴訟代理人弁護士 橋本雄彦
主文
原告有限会社および原告秋本と被告との関係において、被告が訴外山口ヨシ子に対する当庁昭和四三年(ヨ)第四四五三号仮処分申請事件の仮処分決定に基づいて同年五月二日別紙目録第一、第二各記載の物件につきなした仮処分執行は許さない。
原告庄勢の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告有限会社および原告秋本と被告との間においては被告の、原告庄勢と被告との間においては同原告の各負担とする。
事実
原告ら訴訟代理人は、主文第一項掲記の仮処分執行は許さない旨および「訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、
一、被告は、昭和四三年五月二日主文掲記の仮処分決定に基づき別紙目録第一、第二各記載の物件を含む各種動産に対し仮処分執行をなした。右仮処分決定は、右各動産に対する債務者山口ヨシ子の占有を解いてこれを当庁執行官の保管に付し、執行官は、右山口にひき続きその使用を許し、この場合にはその旨をしかるべく公示すべきものとするものである。
二、原告会社は、同年六月一二日訴外有限会社雪谷商事から右第一記載の物件を他の造作等と共に代金一五九万六、〇二〇円で買受けてその引渡を受け、なお、同日訴外林脇林吉から右第一冒頭記載の場所を賃借し、じ来同所でスイス料理専門のレストランを営んでいる。
三、原告庄勢、同秋本両名は、同年一一月一日右訴外会社から右第二記載の物件を他の造作等と共に代金三五〇万円で買受けてその引渡を受け、なお同日右林脇から右第二冒頭記載の場所を賃借し、じ来同所で日本料理店「一色」を経営している。
四、原告らは、右のとおり各物件の引渡を受けてそれぞれの占有を始める際、平穏公然にこれをなし、かつ善意無過失であったから、たとえ右訴外会社が右各物件につき所有権を有しなかったとしても、原告らはそれぞれ右各買受物件の所有権を取得したものである。
なお、原告らが前記のとおり各物件を買受けた際には、各物件が仮処分執行により執行官保管の目的となっていることは何ら公示されておらず、原告らは昭和四四年二月一〇日に至りはじめて当庁執行官より各物件が仮処分執行の目的となっていることを告知されてそのことを知ったものである。
五、よって、原告らは、本件各物件に対する前掲仮処分執行を許さない旨の判決を求める。
と陳述し(た。)立証≪省略≫
被告訴訟代理人は、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、
請求原因第一項の事実は認める。
同第二、第三項の事実は知らない。
同第四項の事実は否認する。
なお、被告は、昭和四二年七月二一日訴外山口ヨシ子から原告ら主張の地下一階各部分を含む約二三〇平方米の区画(当時の店名「天鈴」)の内装、照明、廚房各工事および本件各物件を含む什器備品類の納入を代金合計一、三〇〇万八九〇円(その内什器備品代金は一八〇万乃至九、五一〇円)にて請負い、その支払方法は、内金二五〇万円を右契約と同時、残余部分を二〇回の月賦払とし、その完済までそれらの所有権を被告に留保することと定めた。ところが、山口は、右契約の日の二五〇万円とその後の月賦金二九六万七、五五〇円を支払ったのみで、残余の支払をしないため、被告は、本件各物件を含む被告納入の什器備品につき、原告ら主張のとおり仮処分決定を得てその執行をなしたものである。
と陳述し(た。)立証≪省略≫
理由
請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。
≪証拠省略≫によると、請求原因第二項の事実および同第三項中原告庄勢関係部分を除くその余の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
同第三項中原告庄勢関係事実を認めるに足りる証拠はない。
ところで、原告会社および原告秋本が右認定の請求原因第二、三項のとおりそれぞれ本件各物件の引渡を受けてその占有を始める際、いずれも平穏公然にその占有を取得し、かつ有限会社雪谷商事が右各物件の処分権を有しないものかどうかについて善意であったことは、民法第一八六条第一項により推定されるところ、それらの反対事実を認めるべき証拠はない。
そこで、右原告両名が右のとおりの点についてそれぞれ善意であったことにつき過失がなかったかどうかを判断するに、右訴外会社がその占有にかかる本件各物件を処分する権利を適法に有したことは同法第一八八条により推定されるから、右訴外会社からこれを譲受けた右原告両名は右のように信ずるについては過失がなかったものと推定すべきである。もっとも、≪証拠省略≫によると、本件仮処分執行に際し担当執行官は本件物件等が仮処分により執行官保管の目的となっている旨の公示書をその場所に施したところ、右公示書はその頃何人かにより取り除かれてしまったが、原告会社がその主張の物件を買受けた日の前前日である昭和四三年六月一〇日当庁執行官の点検により右事態が発見されて再び右同旨の公示書が同所に貼付されるに至ったことを認めることができる。しかしながら、≪証拠省略≫によると、右原告両名が本件各物件を買受けてその占有を取得した当時においては、右公示書は再び何人かにより取除かれて存存しなかったことを認めることができるので、右認定の公示書貼付の事実をもって右無過失の推定を覆えすことはできない。そして他に右推定を覆えすに足りる特段の事情は見出し得ない。
そうすると、右原告両名はその主張にかかる本件各物件につき被告に対抗し得る所有権を取得したことが明らかである。
よって、右原告両名の本訴請求は正当として認容し、原告庄勢の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 奥平守男)
<以下省略>